ホーム<裁判員制度に関するQ&A
1.裁判員制度って何?
裁判員制度とは、国民の中から選ばれた素人の裁判員が、職業裁判官と一緒に、刑事事件で起訴された人(これを「被告人」といいます)について、有罪か無罪かの事実認定をし、かつ、有罪の場合に刑罰の内容を決める制度をいいます。
少し詳しく言いますと、裁判員制度は、「衆議院議員の選挙権を有する者の中から」(13条)選ばれた裁判員が、裁判官と一緒に、刑事裁判の、裁判体(合議体)を構成して、
(1)事実の認定、
(2)法令の適用、
(3)刑の量定
をすることを言います(6条)。
裁判員が裁判官と一緒にする?事実の認定というのは、起訴された事実(「公訴事実」といいます)が認められるかどうかを意味し、?法令の適用とは、公訴事実が認められる場合それは何罪になるか、という刑罰法令の適用を意味しますので、要は、(1)と(2)を合わせて、公訴事実について「有罪」か「無罪」かを決めること、をいうのです。単に、事実認定とだけ言われることもあります。
(3)刑の量定とは、有罪と認定した場合に、どのような刑罰を科すか、を決めることです。
つまり、裁判員制度とは、素人の裁判員が職業裁判官と一緒に、被告人について、有罪か無罪かの事実認定をし、かつ、有罪の場合に刑罰の内容を決める制度、をいうのです。
2.裁判員制度はいつから始まるの?
裁判官制度を定めた法律は、裁判員法(「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」の略)ですが、この法律は、2009年5月21日に施行され、早いところでは、同年7〜8月頃から実際の刑事裁判で裁判員裁判が始まります。
3.裁判員制度と同じような制度は、かつて日本にあったの?
昭和3年10月1日に施行された「陪審法」があります。
この法律は現在でも生きている法律なのですが、昭和18年4月1日「陪審法ノ停止ニ関スル法律」の施行により停止されております。
4.陪審法における陪審裁判と裁判員法における裁判員裁判の違いは?
陪審法では、陪審員が「有罪」か「無罪」かを決めるのではなく、裁判官から、起訴された事実が認められるかどうかという「主問」が発せられ、これに対し、陪審員が多数決で、「然り」(有罪の意味)又は「然らず」(無罪の意味)と答申し、「然らず」と答申した場合で、次に、起訴された事実以外の犯罪事実が認められるかどうかという「補問」がなされた場合も、それに対し「然り」又は「然らず」で答申するというもので(正当防衛等が争点になる場合は「その他の問」で発問されることになっていました)、裁判官が、陪審員の答申が不当であると考えると、陪審員の入れ替えが出来るという制度でしたので、国民が主体的に裁判に関与する、というものではありませんでした。
一方、裁判員制度は、裁判員が裁判官と同格で、一緒に裁判体を構成し、裁判する制度です。
5.陪審員裁判の具体例は?
日本初の陪審裁判について説明しますと、その裁判は、昭和3年10月23日大分地方裁判所で開かれました。被告人は、職工で、情痴の果て情婦(今で言う「愛人」)に対し「殺意」をもって出刃包丁で突き刺し、治療2週間の傷害を負わせたという殺人未遂罪で起訴されたものですが、争点は、被告人の「殺意」の有無でした。
陪審員12名は評議室において、秘密裏に評議をし、法廷に出てきました。
そこで、裁判長から
問. 被告人に殺意はあったか?
との主問が発せられました。
陪審員長が、「然らず」と答えました。無罪だという答申です。
引き続いて、裁判長より
問. 殺意がなかったとすれば単に傷害の目的で斬りつけたものであるか?
と補問が発せられました。
陪審員長は、「然り」と答えております。傷害罪に相当するという答申です。
かくして、我国初の陪審員裁判の結果は、単なる傷害罪で終わったのです。
6.陪審員裁判での無罪率は?
昭和3年に始まり昭和18年に停止された、我国初の陪審裁判の下では、484件の陪審裁判が行われ、無罪率は16.7%(81件)と高く、このうち殺人事件の無罪率は6.3%、当時の職業裁判官の無罪率0.07%と比べ、陪審員制度における無罪率は非常に高率であったのです。ただし、この無罪率は、制度の違う、職業裁判官だけでする裁判における無罪率とを単純に比較することはできません。それは、陪審員裁判の下では、被告人に有罪判決が言い渡されると控訴が出来ず、また、被告人が訴訟費用を負担しなければならなかったという被告人に不利な制度になっていたものですので、自白事件についてどの程度陪審員裁判がなされたか不明だからです。
7.陪審員裁判が、今は停止になっている理由は?
陪審員裁判は、被告人が辞退することができ、有罪になった場合控訴(高等裁判所へ上訴すること)が許されない制度だったのですが、制度創設時時は、多くの被告人に利用されました。しかしながら、その後、利用されることが少なくなり、昭和18年には停止され、今日に至っています。
停止の理由は、被告人が有罪になった場合控訴が許されかった等が原因で、利用者が減ったから、と言われています。
8.裁判員が関与する事件ってどんな事件なの?
(1)死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
(2)法定合議事件のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件
です(2条1項)。
具体的な事件名としては、多い順に
強盗致傷、殺人、現住建造物等放火、強姦致死傷、傷害致死、強盗致死(強盗殺人を含む)、強制わいせつ致死傷、強盗強姦、麻薬特例法違反、危険運転致死、偽造通貨行使、銃砲刀剣類所持等取締法違反、覚醒剤取締法違反、保護責任者遺棄致死、麻薬及び向精神薬取締法違反、通貨偽造、拐取者身代金取得、身代金目的拐取等です。
9.裁判員裁判の対象となる事件は、年間何件なの?また裁判員は何人に1人の割合で担当することになるの?
想定される事件数は年間3000件超です。
1事件に6人の裁判員が関与すると仮定すると、年間1万8000人が裁判員になります。年間国民5000人に1人くらいです。
10.裁判員はどんな凶悪な事件であっても、裁判しなければならないの?
裁判員裁判の対象事件ではあっても、裁判員に危害が加えられる具体的な危険がある場合、すなわち、被告人や被告人が属する団体の主張や言動等により、裁判員やその親族等の生命、身体若しくは財産に危害が加えられるおそれ、あるいは、生活の平穏が著しく侵害されるおそれがある場合で、そのため裁判員が畏怖し、裁判員のなり手がいないような場合は、裁判員のする事件から除外されます(3条1項)。
この除外決定は、裁判員が参加する合議体とは別の合議体ですることになっています(3条2項)。これは、裁判員が参加する合議体が、裁判員を排除したいために除外決定をする疑いを招かないようにするためです。
11.では、裁判の長期化が予想される事件は、除外事件になるの?
建前は、除外事件にならないはずです。これを除外事件として認めると、国民の関心が最も高い事件について除外されやすくなること、被告人が細部にわたって争うことで意図的に裁判員裁判を回避できること、等から、除外事件にすべきではない、とされているのです。しかしながら、一方で、現実に裁判員を余りに長期間拘束することも問題ですので、長期間の審理が予想される事件は、除外事件にするのもやむを得ない、とも言われています。
12.裁判員が裁判をする場の裁判体の構成は?
裁判員がする裁判は、原則として、裁判官3人、裁判員6人でし、裁判官のうち1人が裁判長になります(2条2項)。
13.例外はあるの?
例外として、裁判官1名、裁判員4名の合議体もあります。
これは、裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件(「対象事件」といいます)のうち、公判前整理手続による争点及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められた事件のうちで、相当と認められた事件です(2条2項但書、3項)。
ただ、被告人が罪を争わない、いわゆる自白事件、というだけの理由では、この例外にはされません。自白事件でも、重大な事件、世間の注目を集めた事件は、原則どおり、裁判官3名、裁判員6名で審理されることになりますが、この例外となる事件につては、嬰児殺人のようなかなり限定された類型の事件になる、と言われています。
14.裁判員制度創設の経緯は?
小渕内閣時代の平成11年(1999年)7月に、司法制度改革審議会が設置されました。この審議会は、裁判所、法務・検察、弁護士会、法学者、経済界、労働界、消費者団体などに属する有識者13人で構成されたものですが、その検討項目の一つとして、「国民の司法参加」というものがありました。
この問題を審議する中で、弁護士から陪審制導入の提案をしたのですが、このとき最高裁は国民が評決権を持たない参審制という制度が考えられると発言したのです。この発言で、最高裁は、国民の司法参加に前向きだとと理解され、議論が発展していき、委員の1人である松尾浩也東京大学名誉教授が裁判員という言葉を使用して、委員会は、平成13年6月に裁判員制度の導入を提言しました。そして、曲折はありましたが、平成15年5月21日に裁判員法が成立したのです。
15.何故、最高裁は、国民の司法参加に前向きになったの?
弁護士から見ても、裁判所から見ても、現在の刑事裁判には問題が多々あります。その中の1つが、証拠調べが、公判廷で証言をすることが中心でなく、警察官や検察官が作った被告人や関係者の供述調書を裁判官が裁判官室や自宅で読み込むことが中心になっている、ということです。また、審理に長期間を要している事件があることです。この2つの問題は互いに無関係ではありません。
裁判員法の立法作業に関与したある裁判官の著書によりますと、裁判員制度の下では、裁判官と検察官と弁護士とでする「公判前整理手続」により争点を整理して争点の解明に必要な証拠調べを効率的に行う審理計画を立て、公判廷における証人尋問を中心に、連続した日で、集中審理をすることが期待できる、と書いてありますので、最高裁の裁判員制度導入の意図は、そのあたりにあるものと推測されます。
16.裁判員制度の下では、供述調書中心の裁判や、裁判の長期化はなくなるの? 供述調書中心はなくなると思われます。裁判員が裁判所や自宅で時間をかけて“調書”を読む、ということが予定されていないからです。ですから、証拠調べは公判廷での証言が中心になると思われます。また、裁判員の負担を考えますと、裁判の長期化は避けなければなりませんので、裁判員裁判では、裁判の長期化はない、と思われますが、裁判の長期化がすべてなくなるとは思えません。長期裁判になる事件は、裁判員裁判から除外された事件になる、と思われます。
17.裁判員が関与する裁判は、どのくらいの時間かかる見込みなの? 選任手続を含め3日間で済ませることが予定されています、その3日というのは連続した日になる予定です(これを「連日開廷」といいます)。
18.たった3日間の連日開廷で、審理ができるの?
すべての審理を3日ですることは困難ですので、前述しました、裁判官と検察官と弁護士とでする「公判前整理手続」によって、争点が整理され、裁判員の参加する法廷では、その争点に関して集中的な審理がなされることになっております。
19.公判前整理手続を経ておれば、3日だけで十分な審理ができるの?
実は、平成20年10月29日付けのマスコミ報道によれば、平成20年10月28日高松高裁で、一審の判決を、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があった、として破棄した判決が出されたこと、この一審の判決というのは、裁判員制度の導入をにらんだ「連日開廷」で2日間で審理を終えた事件であったこと、が報道されていました。事件は、犯行当時少年であった被告人が、高松市内のアパートで交際相手の女性を殺害したという事件ですが、その被告人には、発達障害があり、その発達障害が犯行の原因や動機の形成などに強く影響を及ぼしているのに、一審判決は、その点を見逃して懲役23年を言い渡したが、これは「判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認」であると批判され、控訴審では懲役18年に減刑なったものです。
この高松高裁の判決は、短期間の審理では、重大な事実を見落とす危険があることを示唆している、と思われます。
裁判員制度の導入により一審の審理が手抜きにならないことを祈るばかりです。